この記事を読んでわかること ・PTC therapeuticsのパイプラインと日本における開発状況
どうも、こんにちは。外資系製薬会社経営企画室に勤めるこういちです。
春になりましたねー。
最近は朝日が昇るのも早くなって、ランニングやブログ執筆などの朝活がしやすいです。
さて、今日はアクセス数が多い「注目の外資系バイオベンチャーシリーズ」です。
今日取り上げるのは、PTC therapeutics。
知っている方も、そうでない方もいらっしゃるとは思います。
これから日本で本格的にビジネス展開していくことが予想される会社なので、このブログの中で取り上げたいと思います。
まだ日本語のホームページがないので、情報は主にGlobal siteや日本語のその他サイトから持ってきました。
それではどうぞ。
PTC therapeutics
さてGlobal サイトに入る前に日本語でこの会社を説明しているロイター社の文章を引用します。
About PTC Therapeutics, Inc.
PTCセラピューティックス(PTC Therapeutics, Inc.)は、科学主導のグローバルバイオ医薬品会社である。
【事業内容】希少疾患の患者に利益をもたらす臨床的に分化した医薬品の発見・開発・商品化に焦点を当てる。
希少疾患や腫瘍学を含む複数の治療領域の新治療法の開発に焦点を当てた、臨床、前臨床、研究および発見段階を含む開発の多様な段階の製品候補および商品を含むポートフォリオパイプラインを持つ。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療のために、「Translarna (ataluren)」と「Emflaza (deflazacort)」の2つの製品を持つ。
中枢神経系(CNS)に影響を与える希少単一遺伝子疾患の遺伝子治療製品候補のパイプラインを持つ。
パイプラインには、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)の治療用の「PTC-AADC」とフェニルケトン尿症(PKU)の「CNSA-001」が含まれる。
PTCT.OQ – PTC Therapeutics, Inc. 概要 | Reuters
ふむふむ、これだけでもだいぶ概要は掴めにいけますね。
続いて、Globalサイトを見にいってみたいと思います。
サイトを見に行くと分かりますが、すでに設立から25年が経過している会社になります。
(従って、厳密にはバイオベンチャーではないです。まあ、でも日本に進出した新たな外資系製薬会社ということで、外資系バイオベンチャーという形で紹介します。ちなみにPTCは過去に一度日本市場から撤退した歴史があり、今回の進出は2度目になります。)
本社はアメリカにあり、すでにNASDAQに上場もしております。
気になるのは会社の規模感。
いつものように株主向けの資料から、会社の”いま”を探りにいきたいと思います。
多分なにかしら資料があるだろうなと思って見に行ったら、ありました。
それがこちら
PTC Corporate Presentation 2023 (March 2023)
この資料の内容を中心に、次項以降から情報をお届けします。
PTCの業績
2022年のTotal Revenue(収益)
- $699M =1$130円換算で約908億円
- (CER:Constant Exchange Rates:為替変動の影響を除いた場合 = $740M = 1$130円換算で約962億円)
2023年の予想されるTotal Revenue(収益)
- $940M-1 B =1$130円換算で約1220億円-1300億円
OPEX (Operating Expense)=運営費
- $890-940$=1$130円換算で約1157億円-1220億円
つまり、この一枚だけ見ると、
- 1000億円規模の会社であること
- 予算(運営費)と売り上げが同じ位 (利益はあまりない)
ということがわかります。
PTCのコマーシャル品
全部で6つのコマーシャル品を有しています。
- 製品名:Translarna
- 一般名:ataluren
- 適応症:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
- 製品名:Emplaza
- 一般名:deflazacort
- 適応症:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
- 製品名:Evrysdi
- 一般名:risdiplam
- 適応症:脊髄性筋萎縮症(SMA)
- 製品名:Upstaza
- 一般名:eladocagene exuparvovec
- 適応症:AADC欠損症(芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素欠損症)
- 製品名:Tegsedi
- 一般名:inotersen
- 適応症:遺伝性トランスサイレチン型アミロイドポリニューロパチー
- 製品名:Waylivra
- 一般名:volanesorsen
- 適応症:家族性カイロミクロン血症症候群
希少疾患に特化している会社であることがわかります。
売上の割合の半分以上を占めるのが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)となっています。
TranslarnaとEmplazaで2022年の売上が$507M (1$130円換算で約659億円)。
ここが会社にとっての大きなフランチャイズです。
さて、次はどんなパイプラインがあるか、見ていきたいと思います。
PTCのパイプライン(試験名で紹介)
開発の注力エリアは神経疾患、遺伝性疾患、オンコロジーであることがわかります。
数が多いので、すべてを紹介することは出来かねますが、データの発表が近いものが同じ資料に公表されていたので、そちらをご紹介します。
データの発表が近いものとしてハイライトされていたのは、
- aphenity study (Data Expected: 2023年5月)
- MIT-E study (Data Expected: 2023年2Q)
- MOVE-FA study (Data Expected: 2023年2Q)
この3つです。
超シンプルにそれぞれ紹介していきます。
aphenity study (Data Expected: 2023年5月)
対象はフェニルケトン尿症。
Aphenityというのは開発の試験名です。
薬はsepiapterinという薬剤を投与していることが図から読み解けるかと思います。
データの予想は2023年5月。
臨床試験情報はこちらから確認できます。
A Study of PTC923 in Participants With Phenylketonuria – Full Text View – ClinicalTrials.gov
色々な国の登録が確認できましたが、残念ながら日本のサイトの登録は確認できませんでした。
(ドラッグロスやんけ。っと思ってしまいました。)
MIT-E study (Data Expected: 2023年2Q)
対象はMitochondrial disease associated seizures (MDAS) ミトコンドリア病に伴う発作。
MIE-Tというのは開発の試験名です。
薬はVatiquinoneという薬剤が使われています。
「Vatiquinonは、患者の発作に関与する重要なエネルギーおよび酸化ストレス経路の制御因子である15-リポキシゲナーゼをターゲットとしている」と記載されています。
この病気にはいま治療薬がないとのことで、開発が待たれているようです。
ミトコンドリア病は新薬が望まれている希少疾患としても有名です。
プライマリ―エンドポイントは運動発作の頻度がベースラインと比べてどう変化したかを見る試験です。
プライマリーエンドポイントの評価、つまりデータが出てくるのは2023年2Q(4月-6月)とのこと。
臨床試験情報はこちらから確認できます。
日本も試験に入ってます!!
北海道大学と千葉の子ども病院で治験が行われていたようです。
すでにエントリーは終了しているようですので、あとはデータが待たれるのみですね。
治療薬が待たれる領域だけに、要注目です。
MOVE-FA study (Data Expected: 2023年2Q)
対象になっている疾患はFriedrelch ataxia (FA), 日本語だとフリードライヒ運動失調症。
フリードライヒ運動失調症 / Friedreich’s Ataxia – International – Reeve Foundation
徐々に神経系の徐々に神経系を冒す遺伝性疾患で、筋肉の衰弱や言語障害や心臓疾患を引き起こすそうです。
使われる薬剤は、Vatiquinoneという薬。
さきほどのミトコンドリア病に伴う発作に対してのMIE-T studyと同じ薬剤ですね。
試験名はMOVE-FA 試験。
「フリードライヒ運動失調症を動かせ!」
という試験名。
目標が、そのまま試験名になったようなStudyです。
良いネーミングセンスですね。
すでにエンロール(組み入れ)は終了したようですので、あとはデータが待たれるのみ。
2023年の2Q(4月-6月)とのことなので、もうすぐです。
詳細な試験情報はこちらから。
この試験には残念ながら日本の施設の登録は確認できませんでした。
ただ日本ではかなり稀で、ほとんど存在しないという論文の記述も別のサイトで見つけることができましたので、施設登録がないのは納得です。
PTC therapeuticsの日本展開
さて、ここまではGlobalのパイプラインを中心に見てきました。
日本ではどのような形で展開するのでしょうか?
まず興味深いことは、PTC therapeuticsは一度日本に進出したものの、撤退をした歴史を持っているということです。
そこについては、日本筋ジストロフィー協会の説明がわかりやすいです。
また現在の日本法人の情報や、社長の情報もまとめて紹介してくれています。
なので、そっくりそのまま引用させて貰います。
(タイトル) 米バイオ企業 PTCが日本に再び進出
(本文)
夢の扉 会員の皆様
アメリカの製薬会社、PTC Therapeutics(PTC)が2022年4月1日、日本へ再び進出したことが筋ジス協会の独自の調べで分かりました。
ナンセンス変異型DMD治療薬のアタルレンを開発中のPTCは、7年前の2015年10月に日本法人(PTCセラピューティクス・ジャパン株式会社)を開設しましたが、それからわずか2年半ほど後の2018年4月に日本から撤退しています。
(PTCホームページ)PTC is in Japan!(外部のサイトを開きます)
PTCのホームページ(英文)によると、新しい日本法人の事務所は東京・日本橋です。
櫻井ステファン社長がインタビューで、今後数年以内に日本で最初の治療を開始することを期待すると話しています。
PTCは、
①脊髄性筋萎縮症(SMA)の経口治療薬、リスジプラム(日本でも昨年8月発売=中外製薬が担当)
②ナンセンス変異型デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬のアタルレン(ヨーロッパとブラジルで発売)
③デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬でステロイド剤(抗炎症剤)のデフラザコート
などの医薬品を取り揃えています。②のアタルレンについては7年前、未承認薬として日本で販売することを計画し、筋ジス協会も厚生労働省へ要望(医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬としての要望)を出して協力しました。
残念ながら未承認薬として許可は下りませんでしたが、現在、国内の病院で治験が進められています。
③のデフラザコートの治験の状況は不明ですが、ステロイド剤としては効果が高いとされています。
一度日本から撤収したPTCが再び日本進出を果たしたことは、②の早期の薬事承認と販売戦略の構築をにらんだ動きではないかとみられます。
☆アタルレンの希少疾病用医薬品 指定審査 令和2年1月20日
治療薬開発のニュース速報2022 | 一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会 令和4年1月12日
かなり、詳しく書いてくれています。
さて、日本法人の情報は、PTC is in Japan! というGlobal siteのページを見に行くと、ほんの少し情報が取れます。
・2022年4月1日に新たに日本法人が設立されたこと。
・本社が日本橋にあること。
・櫻井ステファンさんが社長に任命されたこと。
などが書かれています。
櫻井さんは、元レオファーマの社長(2014年-2021年)です。
2014年時点で40歳と別のネット記事で見つけましたので、現在49歳。
まだまだお若い社長さんということが分かります。
さて、PTC therapeuticsの日本展開ですが、上市にこぎつけそうなものは以下の2剤でしょう。
一つはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬のアタルレン。
もう一つは上記に紹介したミトコンドリア病に伴う発作治療薬のVatiquinone。
それぞれ簡単に紹介します。
アタルレン
アタルレンはPh3試験が日本で動いてます。
「ナンセンス変異型デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者を対象としたアタルレンの第III 相、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、有効性及び安全性試験(非盲検延長投与期を含む)」
現在もリクルート中のようです。
【試験実施施設:全国9施設】
- 大阪刀根山医療センター
- 熊本大学病院
- 国立精神・神経医療研究センター病院
- 名古屋市立大学病院
- 鳥取大学医学部附属病院
- 兵庫医科大学病院
- 宮城県立こども病院
- 東埼玉病院
- 京都大学医学部附属病院
2023年3月現在、試験はリクルーティングの状態。
試験は2024年の1月31日までとなっています。
目標症例数は25例なので、2023年中に試験は終了するのではと思いますが、こればかりはなんともわかりません。
データをまとめて申請できるのが、早くて2024年4Q。
希少疾病用医薬品の指定を受けているのでレビュー期間は9ヶ月とすると、2025年3Qには承認。
2025年4Qに発売というスケジュール感になってこようかと思います。
すでに海外の複数の国で発売されている実績ある薬剤なだけに、確率高く世に出てくるのではと予想します。
Vatiquinone
適応症はミトコンドリア病に伴う発作。
臨床試験情報はこちらから確認できます。
繰り返しになりますが、日本も試験に入っています。
北海道大学と千葉の子ども病院で治験が行われていたようです。
すでにエントリーは終わっていて、データは2023年の2Qに発表されるとのこと。
無事にプライマリーエンドポイントが達成出来ていたら、申請に進むと思われます。
そうすると、2024年1H(1-6月)に申請、2025年1H(1-6月)に承認・販売といったスケジュール感になってこようかと思います。
もしかすると、日本におけるPTC therapeuticsが最初に扱う薬剤はこの薬になる可能性もありそうです。
PTC therapeuticsの求人や転職情報
さてPTC therapeuticsの求人ですが、私は受け取ったことはありません。
Likedinで昨年、日本の求人(確かR&D関連)が動いていた記憶がありますが、最近はあまり見かけません。
Likedin上で数人、日本法人で働いている方を見つけることができますが、2023年3月時点では片手で数えられる位です。
そのため、現在の日本法人の会社の規模感としては一桁から10数名といったところではと想像します。
薬が発売されるのが2年後の2025年だとすると、メディカルやマーケティングスタッフの募集が2023年である今年から、営業組織は2024年から本格化すると予想します。
ですので興味がある方はアンテナを張っておいたほうが良いでしょう。
アンメットニーズの高いALSとミトコンドリア病の治療薬を扱う企業ですので、私自身も興味があります。
バイオベンチャーの求人に強いのは、エンワールドジャパンとJAC Recruitment です。
彼らからは良く情報が入ってくる印象があります
昨年PTCの案件がないかどうか、こちらから質問した時には、まだコマーシャル案件は出ていないということだけ確認できました。
しかし、2023年になっていまどういう状況になっているかはわかりません。
ご興味ある方は、ぜひ積極的に情報を取ってみてください。
むしろ情報あったらこっそり教えてください。
さて、参考までにこういちが登録している転職エージェント一覧を掲載しておきますね。
エンワールドジャパン 製薬専門チームありです。
JAC Recruitment 外資系案件に強みをもっています。
マイナビエージェント どちらかというと内資系案件が多い。
リクルートダイレクトスカウト 本社系案件に強い印象。
【ランスタッド】 外資系案件に強みを持っています。
【アクシスコンサルティング】コンサルティング会社に興味があれば、登録しておいて損はないです。特にBIG4(PwC/EY/KPMG/デロイト)とのコネクションが強く、実績を出しています。20代なら挑戦するのもおおあり!キャリアの幅がぐんと広がります。
その時々で求人が入ってくるエージェントが異なる印象ですので、上位に上げたうちの1-2個は登録しておくことをお勧めします。
それでは本日は以上です。
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